PEACE IN TIME

ギャラリー形式のMy Photograph Album

ヒロシマ

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 八月六日、
家の廊下に座っていた。
その時、...
稲妻の様な光が
頭上を 通りすぎ、
真暗らになり、
やがて明るくなった時、
母、祖母、 私の三人は、
吹きとばされ、床下に落ちていた。
 身体中ガラス片が、つきささり、
切りさかれ、血しぶきが吹き出ていた。
母の喉には大きな穴があき、
言葉を発する度に、
その穴から
赤黒いメンタイコのような物が
たれ下がった。
私は、泣く事も物を言う事も忘れ、
黙ってそれを見ていた。
母は、近くにあった布で、
私の身体にその布をさいて、
必至に結んでくれた。
苦しい息をはきながら、
一滴の血でも止めてやりたいというように。
その母の手は真っ赤で、
ヌルヌルと血で光 っていた。
「火が廻まわって来るぞオ。早くにげろ」
と叫けぶ声がして、
私は誰か男の人の脇にかかえられた。
「お母アちゃーん」始めて私は叫んだ。
その人は、私を抱だいて、
ガレキの上を電車道へ向かった。
母と祖母が、
ガレキの向こうに見えなくなってゆく。
母が、真赤な手をかすかに振ふるのが見えた。

三好 妙子(みよし たえこ)